TEXIT ペインティングに関わりのあるテキスト作品です。


網男

網なんだよね。やっぱりさ、赤黒いモノを取り除くにはさ、網に頼るしか
ないってわけ!で、網を編み続けてるんだ。
かれこれどれくらい編んでいるかな・・・。今何時だろう?

・・・・・・・

少しずつ大きな網に仕上がってきた!今に見てろ、ふふっ・・・
赤黒い物体め、一掃してやるからな!!

・・・・・・・

赤黒い物体の増えるスピード・・・早っ!網が追いついてないぞ。
いつの間に増えてやがるんだ・・・一掃してやる、一掃してやる!
早く、早く編まなきゃ 物体に、アレに負けてしまう!

・・・・・・・
・・・・・・・

ったく、アレにゃ油断ならない・・・。ふと気がつくとオレの横に居やがるんだよ!
オレの周りに集まるんだ!
囲まれちゃならねえ!!

・・・・・・・

閉めきった部屋の暗がりのなかで網を編んでるとさ・・・
なんていうんだろ・・・あれだよ・・・。
ふと気がついたらオレのすぐ横にさ、あの赤黒いのがあるんだ。

オレはできるだけ見ないようにしてるんだぜ!?目を合わすと
アイツら何しでかすかわかんないしな!
そんな時はホンッと集中して編んでるんだけどな、しばらくすると感覚が
曖昧になるんだ。真っ暗な闇のなかだ。

例えば、映画館を考えてみてくれ、集中するにつれて隣に誰が居ようが
誰も居まいが、わっかんなくなる。そんな感じ。
オレもこの部屋でさ、フローリングのひんやりした冷たさを感じながら、
オレがアレなのか、アレがオレなのかを
頭の片隅でぼんやりと考えるわけだよ・・・。
もうオレはアレでもいいかな・・・なんて考えちまう!

そんな時、網が教えてくれるんだ!「おまえはアレじゃないだろ」って。
網を編む指先の感覚が小さな灯火のように暗闇を照らすんだ。
オレはハッとする!

・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・

冷蔵庫、空っぽですよ?

・・・・・・・

オレの部屋の間取りだよ。
この辺で網を編みはじめたんだが、例の、オレかアレかわからない物体が
増えるに従って狭くなったよ、おもしろい程にね・・・。
オレ・・・今、家のどこに居るんだよ!?

・・・・・・・
ああ、アレとアレの間から吹いてくる隙間風がエラく冷たい・・・。
風邪でもひいたらどうしてくれるんだ、
病院なんて行けないぜ?外出られないんだし。
一人ぼっちで風邪こじらして肺炎でもなって・・・簡単に死んだりしてな。

ま、アレがオレの代わりしてくれるか。
・・・え、あ・・・いや、オレとアレは違う!ああ、網を編も。

・・・・・・・・
・・・・・・・・


 突如、ドアの前に発生した赤黒い物体の集団によって、男はアパートの自室に
閉じ込められることとなった。その物体は室内にも侵入してくるようになり
男の生活は一変する。
 設備のメンテナンス会社をクビになり、未だ部屋から出られない男は網を編む
ことで赤黒い物体を一掃できると信じるようになる。
社会から切り離された空間で、男は真っ青な網を編み続ける。

 しだいに男は赤黒い物体と自己との区別がつかないようになるが、暗い部屋の
なかで網を編むことによって意思を保つことができた。

 男がはたしてその物体を一掃することができたのか?
男自身が網であり物体であったのか・・・それとも元々空想でしかなかったのか・・・
すべては明らかになっていない。男の記録は以下の新聞記事のみである。

 アパートの一室で男性の白骨遺体が発見される。死後推定3年半。
特に荒らされた形跡はなく、部屋の中央でうずくまる様にして死亡したようだ。
部屋には埃が堆積しており、台所のシンクの上に男性のものと思われる手記が数枚置かれていた。
男性は20代〜30代前半、身長約170p。身元は不明であり、手記の内容も支離滅裂である。
                    200●年 12月 ●日発行 ●●スポーツ新聞記事より

                   以上、薮原エージェント・リサーチ社の調査による。

<完>






当サイトは基本的にリンクフリーです。相互リンクはメールにてご連絡下さい。
当サイトの画像・文章を、許可無く転載・配布等することはは一切禁止します。

Top

Works

Texit

Profile

News

Link


お問い合わせ・作品のご感想はこちらまで。